D2C市場は、ECの普及やSNSの発展を背景に成長を続けています。メーカーやブランドが消費者と直接つながることで、顧客ニーズを迅速に把握しながら商品開発やマーケティングを行える点が大きな強みです。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、日本国内のBtoC-EC市場規模は2024年に26.1兆円となり、前年比5.1%増加しています。
一方で、市場の拡大に伴い競争も激化しており、従来と同じ手法だけでは継続的な成長を見込むことが難しくなっています。
近年は顧客データの活用や生成AIの導入、パーソナライズ施策の強化など、D2Cを取り巻く環境が大きく変化しています。また、物価上昇や消費者ニーズの多様化への対応も欠かせません。本記事では、2026年のD2C市場で注目される最新トレンドと市場動向を紹介します。
1. 顧客データ活用の重要性がさらに高まる
D2C市場では、顧客データの活用がこれまで以上に重要になっています。
近年はプライバシー保護への意識の高まりやCookie規制の強化により、第三者データに依存したマーケティングの効果が低下しつつあります。そのため、多くのD2Cブランドが自社で収集した顧客データ(ファーストパーティデータ)を活用し、顧客理解の深化や売上向上につなげる取り組みを進めています。
例えば、購入履歴や閲覧履歴、会員登録情報、メールマガジンの反応データなどを分析することで、顧客ごとに最適な商品提案やキャンペーン配信が可能になります。国内でも、定期購入型のD2CブランドやEC事業者を中心に、CRMツールやマーケティングオートメーションを活用したパーソナライズ施策が広がっています。
また、Shopify(ショピファイ)やecforce(イーシーフォース)などのECプラットフォームでは、顧客データを活用した販促機能や分析機能の導入や活用が進んでいます。新規顧客獲得コストが上昇するなか、既存顧客との関係強化はますます重要になっています。
今後のD2Cビジネスでは、単にデータを収集するだけでなく、顧客のニーズや購買行動を分析し、商品開発やマーケティング施策へ反映することが競争力を左右する重要なポイントとなるでしょう。
2. 生成AIの活用がD2C運営の標準になる
生成AIの普及により、D2C事業においてもAIを活用した業務効率化や顧客体験の向上が進んでいます。これまでは一部の大企業を中心に導入されていましたが、近年は中小規模のD2Cブランドでも利用しやすい環境が整い、日常業務のさまざまな場面で活用されるようになっています。
総務省の「令和7年版 情報通信白書」によると、日本国内における生成AIの利用率は2024年度時点で26.7%となっており、生成AIの活用は急速に広がっています。D2C事業者においても、マーケティングや顧客対応への導入が進んでいます。
例えば、ChatGPT(チャットジーピーティ)やGemini(ジェミニ)などの生成AIを活用することで、商品説明文やメールマガジン、SNS投稿、広告コピーの作成を効率化できます。また、AIチャットボットを導入することで、問い合わせ対応の自動化や顧客サポートの品質向上も期待できます。さらに、顧客データと組み合わせることで、一人ひとりの興味や購買履歴に応じた商品提案やマーケティング施策を実施できるようになります。
国内でも、ShopifyやecforceなどのECプラットフォームと生成AIを組み合わせて活用する事業者が増えており、コンテンツ制作や販促業務の効率化が進んでいます。今後は単なる業務効率化ツールとしてだけでなく、マーケティングや顧客対応、商品企画を支える重要な基盤として生成AIを活用する企業がさらに増えていくでしょう。
3. リアルで共感を生むコンテンツが支持される
D2C市場では、作り込まれた広告や宣伝色の強いコンテンツよりも、実際の利用シーンや顧客の声を伝えるリアルなコンテンツが支持される傾向にあります。SNSや動画プラットフォームの普及により、消費者は企業から発信される情報だけでなく、実際に商品を利用したユーザーのレビューや体験談を参考にしながら購入を検討するようになっています。
例えば、Instagram(インスタグラム)やTikTok(ティックトック)でのUGC、購入者レビュー、スタッフによる商品紹介動画などは、ブランドへの信頼感や親近感を高める効果があります。国内では北欧、暮らしの道具店が読み物や動画コンテンツを通じてブランドの世界観を発信し、多くのファンを獲得している好例として知られています。
また、商品の開発背景や製造工程を公開することで、ブランドへの共感を生み出す企業も増えています。今後は見栄えの良さだけを追求するのではなく、ブランドの価値観や商品へのこだわりが伝わる等身大のコンテンツがより重要になるでしょう。顧客との信頼関係を構築し、長期的なファンを育成するためにも、リアルで共感を生む情報発信が求められています。
4. アフィリエイトマーケティングが新規顧客獲得を後押しする
広告費の高騰により顧客獲得コストが上昇するなか、D2Cブランドではアフィリエイトマーケティングを活用した新規顧客獲得に注目が集まっています。アフィリエイトマーケティングは、メディア運営者やインフルエンサーが商品やサービスを紹介し、その成果に応じて報酬を支払う仕組みです。成果報酬型で運用できるため、広告費を効率的に活用しやすい点が特徴です。
日本国内では、A8.netやもしもアフィリエイト、バリューコマースなどのASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)を活用する企業が多く、D2Cブランドの販路拡大にも活用されています。また、検索エンジンで上位表示されるレビューサイトや比較メディア、SNSで影響力を持つクリエイターを通じて商品を紹介してもらうことで、自社だけではリーチできない層への認知拡大も期待できます。
近年は、個人クリエイターが収益を生み出すクリエイターエコノミーの拡大に伴い、インフルエンサーや専門メディアとの連携を重視するD2Cブランドも増えています。
5. 経営者やブランド担当者による情報発信が重要になる
D2Cブランドでは、商品そのものだけでなく、ブランドの理念やストーリーに共感して購入する消費者が増えています。そのため、企業アカウントからの発信だけでなく、経営者やブランド担当者自身が情報発信を行う重要性が高まっています。SNSやブログ、動画コンテンツなどを通じてブランドの考え方や商品開発の背景を伝えることで、顧客との距離を縮めやすくなります。
特に近年は、企業よりも誰が発信しているかを重視する消費者が増えており、経営者や担当者の顔が見える情報発信はブランドへの信頼感や親近感の向上につながります。国内でも、土屋鞄製造所や北欧、暮らしの道具店など、ブランドの価値観やものづくりへのこだわりを継続的に発信することでファンを獲得している事例が見られます。
D2Cブランドは顧客と直接つながるビジネスモデルだからこそ、商品やキャンペーンの告知だけでなく、ブランドが大切にしている考え方や取り組みを積極的に発信することが重要です。今後は経営者やブランド担当者による情報発信が、他社との差別化や長期的な顧客関係の構築を後押しする重要な要素となるでしょう。
6. 物価上昇を踏まえた価格戦略が求められる
原材料費や物流費、人件費の上昇が続くなか、D2Cブランドにとって価格戦略の重要性が高まっています。一方で、消費者も物価上昇の影響を受けており、購入時には価格だけでなく商品の価値や必要性をこれまで以上に慎重に判断する傾向があります。そのため、単純な値上げだけでは顧客離れを招く可能性があり、価格に見合った価値を伝える取り組みが求められています。
例えば、商品の品質や機能性、原材料へのこだわり、製造工程の透明性などを積極的に発信することで、価格以上の価値を感じてもらいやすくなります。国内でも、土屋鞄製造所やFABRIC TOKYO(ファブリック トーキョー)などは、ものづくりへのこだわりや品質を訴求することで、価格競争に依存しないブランドづくりを進めています。
また、定期購入やセット販売、会員限定特典などを活用し、顧客にお得感を提供する施策も広がっています。今後のD2C市場では、安さだけを競うのではなく、ブランド価値の向上と顧客満足度の両立を図ることが重要です。価格設定の背景や商品の価値を丁寧に伝えながら、持続的な成長を見据えた価格戦略を構築することが求められるでしょう。
7. パーソナライズ体験や限定商品の需要が高まる
D2C市場では、消費者一人ひとりのニーズに合わせたパーソナライズ体験や、希少性の高い限定商品の需要が高まっています。商品やサービスがあふれるなかで、消費者は自分に合った提案や特別感のある体験を求める傾向が強まっており、画一的な商品提供だけでは差別化が難しくなっています。
例えば、購入履歴や閲覧履歴をもとにおすすめ商品を表示したり、顧客ごとに異なるメール配信やキャンペーンを実施したりすることで、より満足度の高い購買体験を提供できます。国内では、オンライン診断をもとに一人ひとりに合わせたヘアケア商品を提供するMEDULLAや、オーダーメイドスーツを展開するFABRIC TOKYOなどが、パーソナライズを強みとするD2Cブランドとして知られています。
また、数量限定商品や期間限定コレクション、会員限定販売などは購買意欲を高める施策として多くのブランドで活用されています。こうした取り組みは顧客満足度(CS)の向上だけでなく、ブランドへの愛着やリピート購入の促進にもつながります。今後は顧客データを活用しながら、一人ひとりに最適化された体験と限定性のある商品提供を両立できるブランドが競争優位性を高めていくでしょう。
8.後払い決済(BNPL)の利用が拡大している
D2C市場では、後払い決済(BNPL)の導入が進んでいます。BNPLは、商品を購入した後に代金を支払える決済方法であり、クレジットカードを持たないユーザーでも利用しやすいことから、幅広い世代に利用が広がっています。特にEC市場では決済手段の多様化が進んでおり、消費者はより利便性の高い支払い方法を求める傾向があります。
経済産業省によると、日本のキャッシュレス決済比率は2024年に42.8%となり、政府目標である4割を前倒しで達成しました。こうしたキャッシュレス化の進展は、BNPLを含む多様な決済サービスの普及を後押ししています。
日本国内では、Paidy(ペイディ)やatone(アトネ)、NP後払いなどのサービスが普及しており、多くのECサイトやD2Cブランドで導入されています。初めて利用するブランドでは、商品を確認してから支払いたいと考えるユーザーも多く、後払い決済は購入時の心理的ハードルを下げる効果が期待できます。また、決済方法の選択肢を増やすことで、カゴ落ちの防止やコンバージョン率の向上につながるケースもあります。
今後は商品の品質やマーケティング施策だけでなく、顧客が安心して利用できる決済環境の整備も重要になります。後払い決済を含めた柔軟な支払い方法を提供することが、顧客満足度の向上や売上拡大を支える重要な施策の一つとなるでしょう。
9. Z世代を意識したブランド戦略が重要になる
D2C市場では、Z世代を意識したブランド戦略の重要性が高まっています。Z世代はSNSや動画コンテンツを日常的に利用しており、従来の広告よりも口コミやレビュー、インフルエンサーの発信を参考にして商品を購入する傾向があります。そのため、ブランド側には従来とは異なるコミュニケーション手法が求められています。
特にInstagramやTikTok、YouTube(ユーチューブ)などのSNSは、Z世代との接点をつくる重要なチャネルとなっています。国内でも、化粧品やアパレル、食品などのD2Cブランドがショート動画やライブ配信を活用し、商品の魅力やブランドの世界観を発信する取り組みを強化しています。また、Z世代は商品の価格や機能だけでなく、ブランドの価値観や社会的な取り組みにも関心を持つ傾向があり、環境への配慮やサステナビリティへの姿勢が購入判断に影響することもあります。
今後のD2Cブランドは、一方的に情報を発信するだけでなく、SNSを通じた双方向のコミュニケーションを強化しながら、顧客との関係性を構築することが重要になります。Z世代の価値観や購買行動を理解し、共感を得られるブランドづくりが競争力の向上につながるでしょう。
10. SNSを活用した顧客との直接コミュニケーションが重要になる
D2C市場では、SNSを活用した顧客との直接的なコミュニケーションが重要になっています。従来のように広告や小売店を介して顧客と接点を持つのではなく、InstagramやTikTok、YouTube、Xなどを通じてブランド自らが情報を発信し、顧客との関係を構築する企業が増えています。
SNSの大きな特徴は、商品やキャンペーンの告知だけでなく、コメントやダイレクトメッセージを通じて顧客と双方向のコミュニケーションを行えることです。実際に、アパレルブランドのCOHINA(コヒナ)やライフスタイルブランドの北欧、暮らしの道具店などは、SNSを活用してブランドの世界観や商品開発の背景を発信し、多くのファンを獲得しています。また、ライブ配信やショート動画を活用した情報発信も広がっており、顧客との新たな接点づくりに役立っています。
今後は単にフォロワー数を増やすだけでなく、SNSを通じて顧客の声を収集し、商品開発やサービス改善に役立てることが重要になります。顧客との継続的な関係構築を実現できるブランドが、D2C市場において競争優位性を高めていくでしょう。
11. ファンコミュニティの形成がブランド成長を左右する
D2C市場では、単に商品を販売するだけでなく、ブランドを支持するファンコミュニティの形成が重要になっています。近年は新規顧客獲得コストが上昇していることから、既存顧客との関係を深め、継続的に購入してもらうことがブランド成長の鍵となっています。そのため、多くのD2Cブランドが顧客との長期的な関係構築に力を入れています。
ファンコミュニティを形成することで、顧客同士の交流やブランドへの愛着が生まれやすくなります。また、コミュニティ内での口コミやSNS投稿が新たな認知拡大につながることも少なくありません。国内では、スノーピークがキャンプイベントや会員向けサービスを通じて強固なコミュニティを構築しているほか、北欧、暮らしの道具店もコンテンツを通じてファンとの継続的な関係を築いています。
さらに、コミュニティを通じて収集した顧客の声は、商品開発やサービス改善にも活用できます。今後のD2Cブランドは、商品の販売だけでなく、顧客がブランドとのつながりを感じられる場を提供することが重要です。ファンコミュニティの形成に取り組むブランドほど、継続的な売上成長と高い顧客ロイヤルティを実現しやすくなるでしょう。
12. サブスクリプションモデルの活用が広がる
D2C市場では、継続的な売上を確保しやすいサブスクリプションモデルの活用が広がっています。従来の単品販売だけでは売上が顧客の購入頻度に左右されやすい一方、定期購入モデルを導入することで安定した収益基盤を構築しやすくなります。また、顧客にとっても注文の手間が省けるため、利便性の向上につながる点が特徴です。
特に食品や化粧品、健康食品などのリピート性が高い商材では、サブスクリプションモデルとの相性が良いとされています。国内では、パーソナライズサプリメントを提供するFUJIMIや、冷凍宅配食サービスのGREEN SPOON(グリーン スプーン)、食品宅配サービスのOisixなどが定期購入モデルを活用し、多くの顧客を獲得しています。また、顧客データを活用して商品内容や配送頻度を最適化する取り組みも進んでいます。
今後は単に定期購入を提供するだけでなく、会員限定特典やパーソナライズ提案などを組み合わせ、継続利用したくなる体験を提供することが重要です。顧客との長期的な関係を構築できるサブスクリプションモデルは、D2Cブランドの成長を支える重要なビジネスモデルの一つとなるでしょう。
13. メーカーによるD2C参入が加速している
近年は、メーカーが卸売業者や小売店を介さずに消費者へ直接商品を販売するD2C事業への参入を加速させています。従来の販売モデルでは、顧客との接点が限られ、購入者のニーズや購買行動を把握しにくいという課題がありました。一方、D2Cを活用することで、顧客データを直接収集できるほか、顧客との継続的な関係構築やブランド価値の向上につなげやすくなります。
国内でも、大手メーカーを中心にD2C事業への取り組みが広がっています。例えば、ロート製薬はスキンケアや健康関連商品の販売を通じて顧客との直接的な接点を強化しており、花王も自社ECを活用した顧客体験の向上に取り組んでいます。また、食品メーカーや飲料メーカーが自社ブランドの商品をオンラインで販売する事例も増えています。
D2Cは単なる販売チャネルの拡大ではなく、顧客の声を商品開発やマーケティングに反映できる点が大きな魅力です。今後はメーカーによるD2C参入がさらに進み、顧客との直接的な関係を強みとするブランドが増えていくでしょう。
14. オムニチャネル戦略の重要性が高まる
D2Cブランドはオンライン販売を中心とするビジネスモデルですが、近年はオンラインとオフラインを連携させるオムニチャネル戦略の重要性が高まっています。消費者の購買行動は多様化しており、SNSで商品を知り、ECサイトで情報収集を行い、実店舗やポップアップストアで商品を体験したうえで購入するケースも増えています。そのため、複数のチャネルを横断した一貫性のある顧客体験の提供が求められています。
国内でも、FABRIC TOKYO(ファブリックトーキョー)は実店舗で採寸を行い、その後の購入はオンラインで完結できる仕組みを構築しています。また、Allbirds(オールバーズ)やバルミューダなども実店舗とECサイトを組み合わせながら顧客接点を拡大しています。こうした取り組みによって、オンラインだけでは伝えきれない商品の魅力やブランドの世界観を直接体験してもらいやすくなります。
今後はECサイトだけでなく、実店舗、SNS、アプリ、メールマガジンなどを連携させながら顧客との接点を最適化することが重要になります。顧客がどのチャネルを利用しても快適な体験を提供できるブランドが、D2C市場で競争優位性を高めていくでしょう。
まとめ
D2C市場は今後も成長が期待される一方で、顧客ニーズや購買行動の変化に対応することがこれまで以上に重要になります。顧客データの活用や生成AIの導入、パーソナライズ施策の強化などを進めることで、顧客体験の向上や競争力の強化につなげることができます。
また、物価上昇への対応や決済手段の多様化、Z世代を意識したブランド戦略なども無視できないテーマです。市場環境が変化するなかで継続的にトレンドを把握し、自社に適した施策を取り入れることがD2Cビジネスの成長につながります。今回紹介したトレンドを参考に、自社のブランド運営やマーケティング戦略の改善や見直しに役立ててみてください。
D2Cのトレンドに関するよくある質問
2026年のD2C市場で注目されているトレンドは?
顧客データ活用の高度化、生成AIの導入、パーソナライズ施策の強化、ファンコミュニティの形成、SNSを活用した顧客との直接コミュニケーションなどが注目されています。また、オムニチャネル戦略やサブスクリプションモデルの普及も拡大しています。
なぜD2Cブランドは顧客データの活用を重視している?
Cookie規制の強化や広告費の高騰により、自社で収集した顧客データの重要性が高まっているためです。購入履歴や行動データを活用することで、より効果的なマーケティングや顧客体験の改善につなげられます。
今後のD2C市場はどのように変化すると予想されてる?
新規顧客獲得よりも既存顧客との関係強化が重要になり、コミュニティ形成やパーソナライズ施策への投資が進むと考えられています。また、生成AIやクリエイターエコノミーの活用も一層広がると予想されています。




