越境ECを始める際には、商品の販売だけでなく、決済、税金、関税、返品対応、各国の法規制など、国内販売とは異なる業務への対応が必要です。こうした海外販売に伴う複雑な業務を管理するうえで重要な役割を担うのが、マーチャント・オブ・レコード(MoR)です。
MoRは、顧客との取引において販売者としての責任を負い、決済処理や税務対応、コンプライアンス対応などを担う事業者を指します。自社で海外販売の体制を整える場合と比べ、MoRを活用することで、越境ECに必要な管理業務の負担を大幅に軽減しやすくなります。本記事では、MoRの基本的な意味や越境ECにおける役割、利用するメリット、導入を検討すべきケースについて解説します。

マーチャント・オブ・レコード(MoR)とは
マーチャント・オブ・レコード(MoR)とは、顧客との取引において正式な販売者として記録され、販売に伴う責任を負う事業者のことです。「マーチャントオブレコード」と表記される場合もあります。
越境ECでは、商品を海外の顧客に販売する際に、決済処理、税金、関税への対応、返品、返金および各国の法規制やコンプライアンス対応など、国内販売とは異なる業務が発生します。MoRは、こうした販売に関わる実務や法的責任の一部を、販売元に代わって担います。
自社がMoRになる場合は、各国の税制や規制を理解し、適切に対応する体制が必要です。一方で、外部のMoRサービスを利用すれば、海外販売に伴う複雑な管理業務を任せられます。そのため、MoRは越境ECを効率的かつ安全に展開するうえで重要な仕組みのひとつです。

越境ECを自社で運営する場合とMoRを利用する場合の違い
越境ECを自社で運営する場合とMoRを利用する場合では、販売に伴う責任範囲が大きく異なります。自社で運営する場合、決済や税金関係、返金などに関する各国の法規制への対応をすべて自社で管理する必要があります。自由度は高い一方で、高度な専門知識や運用体制が求められます。
一方、MoRを利用する場合は、海外販売に関わる一部の法的責任や実務を外部の事業者に任せることができます。なお、決済代行サービスは主に決済処理を支援するサービスであり、税務、関税から法規制対応までを担うMoRとは役割が異なります。
自社運営とMoR利用時の主な違いは以下のとおりです。
自社運営
- 販売戦略や顧客体験を細かく管理しやすい
- 税務、法規制、決済対応などの負担が大きい
MoR利用
- 越境販売に必要な業務を任せやすい
- 対応範囲や手数料、ブランド側で管理できる領域を確認する必要がある
自由度を重視するなら自社運営、運用負担を抑えて海外販売を始めたい場合はMoRの活用が選択肢になります。

MoRを活用して越境ECを展開する方法
MoRサービスの対応範囲を確認する
MoRサービスを利用する際は、まずどの業務まで対応してもらえるのかを確認することが重要です。MoRは一般的に、決済処理、税金、関税への対応、請求書発行、返金処理、コンプライアンス対応などを担いますが、対応範囲はサービスによって異なります。
また、越境ECでは配送、在庫管理、返品対応などのEC物流体制も重要になるため、MoRサービスが物流業務まで対応しているのか、別途EC物流サービスとの連携が必要なのかも確認しておきましょう。
たとえば、税務対応は含まれていても、配送や返品処理対応は別サービスとの連携が必要になる場合があります。
販売したい国や地域に対応しているか確認する
MoRサービスを選ぶ際は、自社が販売したい国や地域に対応しているかを必ず確認しましょう。
越境ECでは、国や地域によって税制、関税、消費者保護ルール、決済手段、配送条件などが異なります。そのため、MoRサービスによっては、特定の国には対応していても、別の地域では利用できない場合があります。たとえば、欧米向けの販売に強いサービスでも、アジア圏や一部の新興国への対応が限定的なケースもあります。
また、現地通貨での決済、現地の税務処理、返品対応まで含まれるかも確認が必要です。販売対象国とサービスの対応地域を事前に照らし合わせることで、販売開始後のトラブルや追加コストの発生を防ぎやすくなります。
手数料や自社で管理する業務を整理する
MoRサービスを導入する際は、手数料と自社で管理する業務を事前に整理しておくことが大切です。
MoRを利用すると、税務対応や決済処理などを任せられる一方で、サービス利用料や取引ごとの手数料が発生します。費用だけを見るのではなく、自社で対応した場合に必要な人件費、システム費用、専門家への相談費用なども含めて総合的に比較するとよいでしょう。
また、MoRを利用しても、商品企画、在庫管理、マーケティング、ブランド表現、顧客対応の一部などは自社で担うケースがあります。どこまでをMoRに任せ、どこからを自社で管理するのかを明確にしておくことで、導入後の運用負担や必要なリソースを把握しやすくなります。

MoRを利用するメリット
-
税務・関税対応の負担を軽減できる
MoRを利用するメリットのひとつは、越境ECに伴う税務や関税対応の負担を軽減できる点です。海外販売では、国や地域ごとに消費税、付加価値税、関税などのルールが異なります。自社ですべてを管理する場合、各国の制度を調べ、税額の計算や徴収、申告に対応する体制が必要です。MoRサービスを活用すれば、こうした販売に関わる税務処理や関税対応を代行してもらえるため、社内の運用負担を抑えながら越境ECに取り組みやすくなります。 -
各国の法規制やコンプライアンスに対応しやすくなる
越境ECでは、販売先の国や地域によって、消費者保護、返品、返金、個人情報保護、表示義務などのルールが異なります。自社だけで対応しようとすると、法規制の調査や専門家への相談が必要になり、時間やコストがかかる場合があります。MoRサービスを利用すれば、海外販売に関わるコンプライアンス対応をサポートしてもらえるため、販売先ごとのルールに対応しやすくなります。特に複数国へ販売する場合は、コンプライアンスリスクを低減できるメリットがあります。 -
海外向けの決済や返金対応を任せやすい
MoRを利用すると、海外向けの決済や返金対応を任せやすくなります。越境ECでは、クレジットカードだけでなく、国や地域ごとによく使われる決済手段、現地通貨での支払い、不正利用対策などへの対応が求められます。また、返品やキャンセルが発生した場合には、為替や手数料を考慮した返金処理が必要になることもあります。MoRサービスを活用することで、こうした決済まわりの複雑な業務を効率化し、現地の顧客に最適化された決済環境を提供しやすくなります。 -
越境ECをスピーディーに始めやすい
MoRを活用することで、越境ECをスピーディーに始めやすくなります。自社で海外販売の体制を整える場合、税務、決済、法規制、返品対応などを一つずつ準備する必要があり、販売開始までに時間がかかることがあります。MoRサービスを利用すれば、海外販売に必要な業務の一部を外部に任せられるため、自社は商品企画やマーケティング、在庫管理などに集中しやすくなります。新しい国や地域で販売を試したい場合にも、初期準備の負担を抑えながら迅速に展開できる点がメリットです。

MoRの利用が向いているケース
-
はじめて越境ECに取り組む場合
はじめて越境ECに取り組む企業は、MoRの利用を検討しやすいケースです。海外販売では、国内ECとは異なり、決済、税金、関税、返品、返金、法規制への対応など、事前に確認すべき業務が多くあります。自社だけで準備を進めると、専門知識の習得や外部専門家への相談が必要になり、販売開始までに時間がかかることもあります。MoRサービスを活用すれば、越境販売に関わる一部の業務を任せられるため、初期の運用負担を抑えながら海外販売を始めやすくなります。 -
複数の国や地域に販売を広げたい場合
複数の国や地域に販売を広げたい場合も、MoRの利用が向いています。越境ECでは、販売先ごとに税制、関税、消費者保護ルール、決済手段などが異なります。1か国だけであれば自社で対応できても、販売地域が増えるほど確認すべき内容や管理業務は複雑になります。MoRサービスを利用すれば、国や地域ごとの販売実務やコンプライアンス対応を任せやすくなり、自社だけで各国のローカルルールを個別に管理する負担を軽減できます。海外展開を段階的に広げたい企業にとって有効な選択肢です。 -
税務・関税・法規制への対応に不安がある場合
税務や関税、法規制への対応に不安がある場合は、MoRの利用を検討する価値があります。海外販売では、付加価値税や関税、輸入規制、表示義務、返品、返金ルールなど、国や地域ごとに異なる制度への対応が必要です。対応を誤ると、追加費用の発生や販売停止、顧客トラブルにつながる可能性があります。MoRサービスを活用すれば、販売に関わる税務処理やコンプライアンス対応を任せやすくなり、自社の知識や体制だけでは対応しにくい部分を補えます。 -
社内リソースを商品開発やマーケティングに集中させたい場合
社内リソースを商品開発やマーケティングに集中させたい場合にも、MoRの活用は有効です。越境ECでは、販売開始後も税務対応、決済処理、返金対応、各国ルールの確認など、継続的な管理業務が発生します。これらをすべて自社で対応すると、本来注力したい商品企画、ブランドづくり、広告運用、顧客獲得などに十分な時間を割けないことがあります。MoRサービスを利用すれば、海外販売に伴う実務の一部を外部に任せられるため、自社は売上拡大につながるコア業務に集中しやすくなります。

ShopifyのManaged Marketsは日本で利用できる?
日本に拠点を置く事業者がShopifyで越境ECを展開する場合、現時点ではManaged Markets(英語)を利用できません。
ShopifyのManaged Marketsは、関税、税金、国際配送、コンプライアンス対応などを支援する越境販売向けの機能ですが、Managed Marketsを利用できるのは、米国本土に拠点を置くマーチャント、およびカナダ、英国の一部ストアに限られています。
なお、対応国、地域の一覧にJapanが含まれている場合がありますが、これは「Managed Marketsを使って販売、配送できる対象国」という意味であり、日本の事業者が利用できるという意味ではありません。
まとめ
マーチャント・オブ・レコード(MoR)は、越境ECにおいて販売者としての役割を担い、決済、税務、関税、返金、コンプライアンス対応などを支援する仕組みです。海外販売では、国や地域ごとに税制や法規制、決済手段が異なるため、自社だけで対応しようとすると大きな負担がかかる場合があります。
MoRを活用すれば、こうした複雑な業務の一部を外部に任せられ、越境ECを始めやすくなります。ただし、MoRサービスによって対応範囲、対象国、手数料、自社で管理すべき業務は異なるため、導入前の確認が欠かせません。
また、ShopifyのManaged MarketsはMoRに関連する仕組みとして参考になりますが、日本の事業者は利用できない点にも注意が必要です。越境ECを効率的に展開するには、自社の販売戦略やリソースに合わせて、適切な運用体制を整えることが重要です。
MoRに関するよくある質問
MoRと販売代理店の違いは?
MoRは、顧客との取引において「正式な販売者」として記録され、決済や販売に伴う責任を担う事業者です。一方、販売代理店は、商品やサービスの販売活動を代行し、販路拡大や顧客獲得を支援する立場です。MoRは販売責任や実務に関わる仕組み、販売代理店は営業・販売促進を担う存在と整理できます。
MoRを利用すると商品の販売価格は変わる?
MoRを利用すると、商品の販売価格が変わる可能性があります。サービス利用料や国際取引手数料、税金、関税、為替などを考慮して価格を設定する必要があるためです。これらの手数料を商品価格に含めるかどうかは、サービス内容や販売戦略によって異なります。導入前に費用構造を確認し、最終的な利益率への影響を試算しておくことが大切です。
MoRを導入するまでにどのくらいの期間がかかる?
MoRの導入期間は、利用するサービスや販売対象国、および自社のEC環境によって異なります。既存のECサイトと連携しやすい場合、比較的短期間で始められることもありますが、決済、税務、商品情報、配送、返品ルールなどの実務面の細かな設定が必要です。複数の国や地域に販売する場合は確認項目が増えるため、余裕を持って準備しましょう。
MoRサービスを利用しても自社ブランド名で販売できる?
MoRサービスを利用しても、自社ブランド名を表に出したまま販売できる場合があります。ただし、購入手続き、請求書、決済明細などにMoR事業者名が表示されるケースがあります。顧客から見た購入体験やブランドイメージに影響する可能性があるため、ストア上の表示、メール通知、決済画面、領収書などの見え方を事前に確認しておきましょう。
MoRを利用する際に契約前に確認すべきことは?
MoRを利用する前には、対応範囲、対象国、手数料、契約条件、サポート体制を確認しましょう。特に、税務や関税対応、返金処理、決済方法、返品対応など、どこまで任せられるのかを明確にすることが大切です。また、契約期間、解約条件、入金タイミング、トラブル時の責任範囲も確認しておくと安心です。




