近年、製造業のBtoB(B2B)事業ではデジタル化が加速し、ECサイトを活用して市場を拡大する企業も年々増加しています。令和6年度の電子商取引に関する市場調査によると、製造業のEC化率は食品と輸送用機械の分野では8割を超え、その他もほとんどの分野で5割以上に達するなど成長が見られます。
この調査結果からも、製造業ではBtoB ECを利用した取引が標準的になりつつあり、引き続き市場が拡大していくことが予想されます。
この記事では、製造業のBtoB ECの活用方法や最適なECプラットフォームの選び方を解説します。ぜひ参考にしてください。

製造業にとってのBtoB ECのメリット
業務効率化やコスト削減ができる
製造業がBtoB ECを活用することで、注文から在庫管理、納期調整までオンラインで一元管理できるため、業務効率が向上し、人手不足の解消や人件費の削減につながります。
顧客ごとに異なる受注内容もシステム内で対応できるようになるため、電話やFAXで受注する際に起こりがちな誤入力などのヒューマンエラーも解消できます。さらに、顧客の注文内容がデジタルデータとして正確に記録されるため、製造現場にもスムーズに共有でき、型番や数量、納期など生産に関わる情報の伝達ミスによるトラブルも防ぎやすくなります。
また、紙やFAXを使用しなくなることで、コスト削減や備品の保管スペースの削減にもなります。
顧客満足度が向上する
製造業がBtoB ECを導入することで、すぐに注文したい場合や在庫や納期をリアルタイムで知りたいといった場合に、顧客自身がオンライン上で注文したり、調べたりできるようになります。電話やFAXで問い合わせや確認のやり取りをしていた時間がかからなくなるため、製品受け取りまでの時間が短縮されて顧客満足度が向上し、リピーターの獲得や長期的な顧客関係の構築にもつながります。
また、顧客がいつも利用する製品に割引価格を設定する、注文履歴からワンクリックで再発注できるようにするなど、UXデザイン戦略で顧客満足度を高めることも可能です。
蓄積されるデータを活用できる
顧客の購買履歴、売り上げや在庫の変動といったデータがネット上に蓄積されるため、このデータを分析することで、市場の動向や季節、天気、イベント等を鑑みた需要予測や在庫の最適化、BtoBパーソナライゼーションなど、マーケティング戦略の策定や経営判断等に活用できます。
また、よく売れる製品や売れない製品、レビューなどのデータを商品開発に活かすことも可能です。その結果、売り上げの向上や自社の発展につなげられます。

製造業に適したBtoB ECプラットフォームの選定ポイント
取引方法に適したカスタマイズができる
自社製品や製造業業界独自の取引方法に適合する標準機能があるか、またはカスタマイズが可能か、そのカスタマイズにかかる費用や開発期間は許容範囲かどうかを考慮しましょう。
たとえば、製造業者が卸売ECを運営する場合、大口注文用の特別な製品ラインナップや割引、支払方法など、取引規模に応じた設定が必要になることがあります。また、製品によっては個別の仕様調整を依頼されるなど、複雑な見積もりが必要になる場合もあるでしょう。
製造業のBtoB ECでは、こういった取引形態に柔軟に対応できるカスタマイズ性の高いプラットフォームが理想的です。
顧客に合わせてパーソナライズできる
顧客ごとのパーソナライゼーションが可能なBtoB ECプラットフォームを選ぶことも大切です。ユニファイドコマースも行えるプラットフォームを選ぶことで、すべての販売チャネルの顧客情報や行動履歴などの個別データに加え、在庫管理、フルフィルメント、マーケティングなど、他業務のデータもリアルタイムで一元管理できるようになります。その結果、タイムリーなパーソナライズドマーケティングが可能になるため、顧客それぞれのニーズやビジネスのタイミングに適合する製品や情報などをレコメンドして、購買意欲を高めることができます。
また、BtoBセルフサービスポータルの形態を採用し、顧客自身でアカウント管理や購入ができるようにすると、顧客の業務が効率化され満足度が向上します。1社のアカウントで複数の購買担当者に権限を付与できるなど、顧客のニーズに合った柔軟な購買活動を行える機能があるとよいでしょう。
担当者も使いやすい
顧客だけでなく、自社の担当者にも利用しやすいECサイトであることも大切です。受注処理や商品登録だけでなく、製品情報や価格の検索、顧客データの確認や分析、顧客の代わりに注文処理を行うなど、担当者はECサイト上でさまざまな作業を行います。そのため、直観的に操作でき、迅速に業務処理ができるプラットフォームを選ぶことが大切です。
担当者一人ひとりに業務要件に応じた権限レベルやアカウントを付与できる仕組みがあるプラットフォームを選ぶとよいでしょう。
他システムとの連携が容易
ERP(統合基幹業務システム)や顧客管理ツール、在庫管理システムなど、現在自社で活用中のシステムがある場合、ERP統合が可能かどうかなど、他システムとの互換性を考慮してECプラットフォームを採用する必要があります。
システム間の連携ができない場合、ECサイトの売り上げなどのデータをシステムに手入力しなければならず、時間のロスや誤入力が発生したり、発注や受注の行き違いが起こったりする恐れがあります。システム同士の連携が容易であればデータ統合の設定を行う時間も削減可能です。データを一元管理し、リアルタイムの情報共有ができるかなどを事前に確認しましょう。
サポートが充実している
ECプラットフォームの導入から運用や拡張まで、困ったときに支援を受けられる体制が整っているかどうかも重要なポイントです。
製造業や企業間取引の業務知識があり、サイトオープン後や事業成長に向けた運用でもサポートしてくれるベンダーを選びましょう。ベンダーに製造業の業務知識があることで、自社の運営や営業活動の現状と理想を理解してもらいやすく、カスタマイズや業務拡大に向けて適切なサポートを提供してもらえます。
安全性が高い
取引情報や企業情報だけでなく、図面データなど顧客の機密情報を扱い、取引規模も大きい製造業では、BtoB ECプラットフォームのセキュリティ対策や、障害への対応スピードも重要になります。
データ通信の暗号化やアクセス権限管理ができることに加え、情報の機密性などに関する国際規格「ISO27001」の取得、個人情報の適切な取り扱いを示す「プライバシーマーク」やPCI DSSの認証など、データコンプライアンスに関する取り組みを行っているプラットフォームを選ぶようにしましょう。
また、担当者ごとにアカウントが作成でき、いつ、誰が、どんな操作を行ったかがわかるシステムを選ぶことで、不正アクセスなどのトラブル時にはアカウントをロックすることで迅速に対応できます。

製造業向けBtoB ECの構築方法
- 課題を洗い出して目的を明確にする
- 顧客セグメンテーションを行う
- セグメントごとの価値提案を考える
- 予算を決めてプラットフォームを選定する
- サイトを構築してテストと調整を行う
- データを分析しPDCAサイクルを回す
1. 課題を洗い出して目的を明確にする
BtoB EC導入の前に、自社の現在の受発注業務や在庫管理、顧客管理の流れを可視化し、現状での課題を洗い出して、導入の目的を明確にしましょう。
業務フローを確認し、出てきた課題の解決に必要な機能要件を固めていきます。現場の課題や困っていることを解決し、業務効率化を実現できるECサイトを制作するために、関係する部署すべてで情報共有し、課題の認識を一致させた上で、自社サイトに搭載する機能を検討しましょう。
2. 顧客セグメンテーションを行う
顧客セグメンテーションを行い、それぞれの業務内容や課題、ニーズを把握しましょう。
製造業の顧客は大手企業から中小の町工場までさまざまなため、求める製品、注文規模、購入頻度が大きく異なります。すべての顧客に同じ価格設定や支払方法を提示するなど、同一の対応を行った場合、大口顧客の離脱や小口注文への過剰サポートなど、売り上げも効率も下がってしまう可能性があります。顧客セグメンテーションを行うことで、各顧客に合ったサイトデザインや機能のカスタマイズを検討できます。
3. セグメントごとの価値提案を考える
顧客セグメントごとにペルソナを設定し、ECサイトで価値提案(バリュープロポジション)できるポイントを探しましょう。
たとえば、詳細な技術仕様や3Dモデルをオンラインで簡単に確認したい顧客、図面データから見積もりを取りたい顧客、いつも購入する製品をワンクリックで簡単に再注文したい顧客、大口割引を希望する顧客など、ECサイトに期待する価値は顧客によってさまざまです。「なぜこの顧客はECサイトから購入すべきなのか」という問いに顧客セグメントごとに明確に回答できるようにすることで、それぞれのニーズに合った価値提案をするために必要な機能要件が決定できます。
4. 予算を決めてプラットフォームを選定する
予算を決定する際には、長期的に運用を継続し事業規模を拡大させていくことを見据えて、導入費用だけでなくランニングコストも含めて検討することが大切です。次のような点を考慮して予算を決定し、BtoB ECプラットフォームを選定しましょう。
- 顧客や取引方法に適合させるためのカスタマイズにかかる費用
- プラットフォーム利用料、ライセンス費用
- 保守やアップグレードなどのインフラ運用も含めた総所有コスト(TCO)
5. サイトを構築してテストと調整を行う
サイト構築の際には、入力が必要な部分や購入プロセスは可能な限りシンプルな設計にしましょう。操作や入力作業が煩雑だと、顧客が途中でサイトを離脱したり、購入を放棄したりしてしまうことがあります。
また、制作したサイトを顧客に公開する前に、必ずテストを行いましょう。操作や決済が正確に完了するかどうかに加えて、顧客がページ離脱やカゴ落ちしそうな部分を発見して改善します。たとえば以下のような操作で、時間がかかったりストレスを感じたりする部分がないか確認し、必要であれば改善しましょう。
- 初回の会員登録
- 商品検索
- 大量購入
- カスタム商品の詳細な仕様の指定
- 図面データのアップロード
- 複雑な見積もり依頼
- 購入プロセス
運用のテスト段階で、営業担当者や事務担当者への社内教育も行いましょう。関係者がサイトオープン前に運用に慣れておくことで、正式な公開時の顧客対応が円滑に行えます。
6. データを分析しPDCAサイクルを回す
最終目標を達成するためにKPIを設定し、1週間ごとや1カ月ごとなどの期間を定めてデータを分析し、サイトに変更を加えて指標の改善を目指しましょう。指標にしやすいKPIには以下のようなものがあります。
- 顧客獲得コスト(CAC):新規顧客の獲得にかかるコスト
- コンバージョン率:サイト訪問者のうち、実際に注文を完了した割合
- カゴ落ち率:カートから決済を開始したものの、購入に至らなかった顧客の割合
- 見積もりから受注への転換率:カスタム製品の見積もりを行った場合の注文完了率
- リードタイム:受注から処理完了までの所要時間
- 返品率:顧客都合や注文ミスで返品となった割合

製造業におすすめのBtoB ECプラットフォーム
- Shopify:SaaS型のプラットフォームで、海外取引やDtoCにも強いのが特徴です。初期費用が比較的安いことや、ERP統合が容易で拡張性が高く、ITの知識がなくても短期間で簡単に導入できることもメリットです。
- EC-CUBE:ダウンロード版は無料で利用できるオープンソースで、自社の商習慣に合わせてカスタマイズしやすく、自由度が高いことが特徴です。システム管理は自社で行う必要があるため、コーディングなどのスキルが必要になります。
- ecbeing:パッケージ型のプラットフォームで、柔軟なカスタマイズができるのが特徴です。中規模企業や大手企業向けで、サイト構築から保守運用までトータルでサポートします。
- アラジンEC:パッケージ型プラットフォームで、基幹システムとの連携がスムーズです。BtoB専用ならではの使いやすさが特徴です。
製造業のBtoB EC成功事例
KANADEMONO
シンプルで洗練されたデザインのセミオーダー家具を提供するKANADEMONO(カナデモノ)は、サイト開設当初はDtoCブランドでしたが、法人顧客の増加に伴い法人会員向けストア「KANADEMONO for BUSINESS」をオープンしています。
同社はShopify PlusのBtoB機能「B2B on Shopify」を活用し、3カ月という短期間で企業向け商品選定から納品までのプロセスを円滑に進められる環境を整備しました。
法人顧客専用のナビゲーションで必要な製品を発見しやすくするだけでなく、配送日時指定や請求書払いを導入することで法人顧客の利便性を向上させ、発注作業の負担を軽減しました。その結果、購入の検討から支払いまでのスムーズな購買体験が実現し、BtoBの顧客数が10倍に増加し、平均月間売上3.4倍という急成長を遂げました。
生活の木
ハーブやアロマの原料の仕入れから製造加工、販売を行う生活の木は、一般消費者向け以外にも、企業向けに卸売りやOEMも行っています。
機能が追加しやすく海外取引にも強いShopifyを使ってBtoB ECサイトを開設した結果、電話とFAXでの問い合わせがなくなって従業員が収益に直結する業務に専念できるようになり、社内の満足度も向上しています。また、データ管理機能を活用して正確なデータを取得することにより、業態ごとの動向の把握や、製品やコンテンツの提案ができるようになり、客単価やコンバージョン率の増加、収益の増加につながっています。
MISUMI
自動化装置や部品、工具、消耗品などの生産と販売を行うMISUMIのBtoB ECサイトは、製造業向けに自社製品に加え他社ブランドも取り扱っており、サイズ違いも含めると1兆の800億倍という点数の製品を販売しています。
同社のECサイトでは、本来特注の部品を標準化し、部品の寸法や仕様を一覧表から選択することで規格品のように発注できるほか、検索ワードの類似製品を探してくれるAI検索機能を使って目当ての製品がすぐに見つけられます。
さらに、特注品のCADデータをアップロードすると即時見積もりができるツールや、部品選定、CADデータの入手から見積もりまでCAD上で完結できるツールを導入したことで、ECサイトでの販売が難しい複雑な部品でもデータがあれば簡単に受注できるようになりました。発注業務をすべてオンラインで完結できることで顧客満足度が向上し、世界的な支持を得ています。
アマタケ
鶏肉や加工食品を製造するアマタケは、日本初のサラダチキンを売り出した会社です。アマタケがBtoB EC受注を導入した結果、発注から納品までのリードタイムが短縮されて利便性が高まり、顧客満足度が向上しています。
社内では、FAXと電話での注文が激減し、月平均1万6000枚ほどもあった印刷が9,000枚まで削減され、大幅なコスト削減が実現しました。電話対応も少なくなったため業務効率が改善し、従業員に余裕が生まれています。
さらに、クレジット決済を導入したことで、サイトからの問い合わせで取引が開始できるようになり、新規顧客の獲得にもつながっています。
MONOVATE
MONOVATEは製薬、化粧品、食品、半導体などさまざまな業界のためのステンレス容器を製造する会社です。
同社のECサイトは、利用目的や課題、業界ごとに採用されている製品などから検索が可能で、写真だけでは判別が困難な製品も見つけやすくなっています。
カスタマイズに関しても、ECサイトを介してヒアリングできるようにすることで営業の業務負荷を軽減しました。顧客がサイトから図面をダウンロードし、「ここにノズルを付け足したい」など要望を書き加えて問い合わせフォームから送信できるようにすることで、顧客の利便性を高め、カスタマイズ製品の受注効率を向上させています。
まとめ
製造業においてもBtoB ECの活用は顧客の利便性を高め、顧客満足度の向上につながります。企業側にとっても、業務効率化やトラブルの防止、マーケティング戦略へのデータの活用など多くのメリットがあります。
製造業のBtoB ECプラットフォームを選ぶ際は、独自の取引方法や顧客に合わせたカスタマイズが可能か、他システムとの連携はスムーズかなど、自社の状況に合わせて無理なく導入できるかに注意しましょう。
BtoB向けECサイトの開設を検討している企業や、ECプラットフォームの変更を検討している企業は、この記事を参考に、自社に最適なBtoB ECプラットフォームを見つけてください。
製造業のBtoB ECについてよくある質問
製造業のBtoB ECのメリットは?
- 業務効率化やコスト削減ができ、ヒューマンエラーやトラブルが減少する
- 顧客満足度の向上が見込める
- 蓄積した取引データをマーケティング戦略や経営判断に活用できる
製造業に最適なBtoB ECプラットフォームは?
製造業のBtoB ECにおすすめのプラットフォームは以下のようなものがあります。
- Shopify:SaaS型で海外取引やDtoCにも強く、短期間で簡単に導入できる。
- EC-CUBE:無料で利用できるオープンソースで、自由度が高い。
- ecbeing:パッケージ型で、中堅企業や大企業の導入事例が多い。
- アラジンEC:BtoB専用のパッケージ型で、基幹システムとの連携がスムーズ。
製造業のBtoB EC成功事例は?
- KANADEMONO:Shopify Plusを活用してBtoBのECサイトを整備した結果、取引企業数が10倍に増加し、平均月間売上3.4倍という急成長を遂げた。
- 生活の木:BtoB EC導入の結果、電話とFAXでの問い合わせがなくなり収益に直結する業務に集中できるようになったほか、業態ごとの動向把握や提案が可能になり客単価やコンバージョン率が増加した。
- MISUMI:ECサイトでの販売が難しい複雑な部品もデータがあれば注文できるようにして、ターゲット市場が世界に広がった。
- アマタケ:ECでの受注でリードタイムが短縮されたことで顧客満足度が向上し、FAXと電話での注文が激減したことでコスト削減と業務効率化も実現した。
- MONOVATE:要望を書き込んだ図面を送信できる問い合わせフォームを設置してECサイトを介したヒアリングを行い、カスタマイズ製品の受注効率を向上させた。
製造業BtoB ECサイト制作の初期費用は抑えられる?
オープンソースやSaaS型のプラットフォームを使えば、比較的安価に製造業BtoB ECサイトを開設できます。コーディングができる人材がいれば、オープンソースのプラットフォームを利用して無料でサイト制作できます。スキルがない場合は、月額数千円のプランもあるShopifyなどのSaaS型のプラットフォームを使えば、短期間で簡単にBtoB ECサイトを構築できます。




